本
読んだ感想としては、まあシリーズ第一作の『リングに』には到底及ばないが、このシリーズを読んでいた人にとっては、『なるほど』と思えるしかけがあって、これまでの本を読んできたことが前提になる一冊だ。
冒頭の死刑執行シーンは、ループを読んだ人ならはっとする描写なのだが、にわかには信じられないシチュエーションのため、ラストまで安心できない。
タロットカードの所では、よくもまあここまで符合する物がある者だと思うほど、らせんとぴったりの言葉が出てくる。主人公が安藤孝則の時点で出落ちなのだが、それでも素直になれない仕掛けもたくさん。
なかなか出てこない貞子。でも、ループ界で発生した事件と出版物の『リング』、それにまつわるらせんでのリングウイルスの発生、安藤満男の『われわれのいる世界は一度滅亡したのではないか』と言う独白。これらが明るみになった所で貞子と言う存在に行くのだが、今回は出てこない。出てくるのだがいつもとは違うのだ。
今度の貞子は、功殻機動隊2の素子同位体の様な存在。再生したのは、完全なオリジナルではなく限りなく多くの貞子の因子を持った存在。高山の干渉でウイルスの仕組みが変わったのか、四人の少女の貞子が出てくるのだが、彼らの成長速度は人間と一緒だった。文字媒体のリングウイルスは、映像媒体のウイルスよりも効果が表れるのが緩慢なようだ。確かに、安藤や宮下は、キャリアに放ったかが発症するにはい当たらず、潜伏期間が異様に長かった。結果として、映像媒体で復活したのは、高野舞から生まれた個体のみ。七日と言うデッドラインがあったため、一週間での成長が可能だったと解釈できる。
その個体差のせいか、四人の貞子の超能力はオリジナルには及ばず、あっさりと殺されてしまう。呪殺するほどの能力もないし、雌雄同体でもない。浅川のレポートに兄の文章が加わったことによる変異なのだろう。
では、あのらせんで再生した限りなくオリジナルの貞子はどうなったのか。彼女も死んでいた。どうやら、安藤が願った多様性がない個体差の脆さが発言し、免疫機構に欠陥があったらしく、あっさりと死んだらしい。でも、彼女は子供を残していた。
貞子が望んでいた物は子供である。子供が作れず、自分と言う存在を残す術がないため、自分自身が永遠に存在し続ける方法をとったのが、ループまでの山村貞子なのだが、この作品では、彼女は高山との有性生殖、つまりセックスによる通常の人間と同じ方法で自分の子供を授かる。殺されてしまった四人の貞子の少女は悲惨な死を迎えたが、オリジナルの要素を最も受け継いだ貞子、丸山真沙子は念願の子供を授かった後、まるで娘を見守る様に、時折姿を見せていた。悪魔でも化け物でもなく、母として存在する。自分の子宮から生まれた孝則と、貞子の正真正銘の娘である茜の出会いは、一種危うさをはらんだ構図ではあるが、神である高山と聖母であり天使であり悪魔でもある貞子が関わる二人のカップリングは、神々しさも感じる。
問題の高山であるが、冤罪による死刑執行を迎えてしまう。この高山は、ループ界に降臨した二見馨に間違いない。ループ界の構造を熟知しているため、ループからさらに下の階次元である二次元に移行する手段を、死の間際でありながら冷静に発見し、二次元へ移行する。この目的がいまいち希薄なのが不満と言えば不満である。二次元の高山が姿を表すのは最後だけだ。真犯人の事と貞子同位体、リングウイルスとそのワクチン、茜の両親、そして、二人の将来の幸せを願う事を伝えるのだが、そのためにしては出てくるのが遅すぎる。
メールソフトに乗って被害者の母親の元に向かう。USBのデータに移行し孝則の手に渡り、解析されていくうちに二次元での肉体を得るのだが、その後しばらく姿を消すのである。もちろん、手掛かりとして書籍のリングの存在を残すのだが、それ以外は何もやっていない様である。
だが、ネット上を自由に行き来できる存在なのだから、何も出来ないわけではない。カーナビの操作、リング事件の捜査がいとも簡単に進むこと、ハッキングも驚くほどうまく成功する。やはり、ループ界での後始末に奔走する事と茜の誤解を解くことが目的であり、孝則に対しては自分と同じ経路の再生とそのために何処か利用した面があるので、彼の言う通り見ていられなかったのであろう。そして、高山、そして馨らしく、次なる世界、一次元への旅に向かう。
これは、多様性を取り戻したループ界の、ある一つの未来なのだろう。高山の一生が大きく変わっていることからも、単一の未来に収束するのではなく、未来は多様性が溢れる、いくつもの分岐点がある、そう言う示唆なのかもしれない。
でも、これだと、上位世界にいる礼子は報われないなあ……。転移性ヒトガンウイルスの元凶と馨が結ばれて、子供までいるんだから。まあ、マルチエンディングシステムがループの仕組みだと思おう。
さてさて、問題はラストなのだが、茜は貞子ではないのだが、充分に因子を持っているのは明らかだ。真犯人は自殺と言う事になるのだが、現場には茜がいた。だが、当人はそんな事はなかったかのように思える。性格的には、非常にナイーブな性格なので、隠し通せる雰囲気でもない。貞子因子が勝手に呪殺したのか、彼女を見守る貞子が娘を守るためにやったのか。携帯の電源が切られていた空白の時間が非常に気になる。突然若返った霊体の貞子がいるので後者なのかもしれない。もしくは、殺された四人の貞子が復讐したか?(貞子は霊体でも加齢するので少女達は茜と同じぐらいになる計算)
作者はどうも三部作構想がるらしい。作中でそれを臭わせるぶんがあるのだ。何しろ、第一部は孝則が主人公だと言うのだから、もうネタバレである。確かに、この『エス』は、構成がリングに似ている。それに、何処かで高山が処分しきれなかった書籍のリングがあるかもしれないのだ。何しろ、十七冊の回収されたリングが処分されたとは書かれていない。二作目は連続殺人犯である新村が主人公になる構想だと登場人物の木原に言わせている。しかも、彼は二次元世界に移行した可能性がある。意外と、今度のシリーズは戦う母の貞子さんがメインなのかも。
ループ界と言う非常に便利な世界観を作った作者の優位さを感じた作品。高い評価ではないが、これはこれであり。解釈の仕方もたくさんあるいい意味で隙がある作品だ。
エス 読了
JUGEMテーマ:本
読んだ感想としては、まあシリーズ第一作の『リングに』には到底及ばないが、このシリーズを読んでいた人にとっては、『なるほど』と思えるしかけがあって、これまでの本を読んできたことが前提になる一冊だ。
冒頭の死刑執行シーンは、ループを読んだ人ならはっとする描写なのだが、にわかには信じられないシチュエーションのため、ラストまで安心できない。
タロットカードの所では、よくもまあここまで符合する物がある者だと思うほど、らせんとぴったりの言葉が出てくる。主人公が安藤孝則の時点で出落ちなのだが、それでも素直になれない仕掛けもたくさん。
なかなか出てこない貞子。でも、ループ界で発生した事件と出版物の『リング』、それにまつわるらせんでのリングウイルスの発生、安藤満男の『われわれのいる世界は一度滅亡したのではないか』と言う独白。これらが明るみになった所で貞子と言う存在に行くのだが、今回は出てこない。出てくるのだがいつもとは違うのだ。
今度の貞子は、功殻機動隊2の素子同位体の様な存在。再生したのは、完全なオリジナルではなく限りなく多くの貞子の因子を持った存在。高山の干渉でウイルスの仕組みが変わったのか、四人の少女の貞子が出てくるのだが、彼らの成長速度は人間と一緒だった。文字媒体のリングウイルスは、映像媒体のウイルスよりも効果が表れるのが緩慢なようだ。確かに、安藤や宮下は、キャリアに放ったかが発症するにはい当たらず、潜伏期間が異様に長かった。結果として、映像媒体で復活したのは、高野舞から生まれた個体のみ。七日と言うデッドラインがあったため、一週間での成長が可能だったと解釈できる。
その個体差のせいか、四人の貞子の超能力はオリジナルには及ばず、あっさりと殺されてしまう。呪殺するほどの能力もないし、雌雄同体でもない。浅川のレポートに兄の文章が加わったことによる変異なのだろう。
では、あのらせんで再生した限りなくオリジナルの貞子はどうなったのか。彼女も死んでいた。どうやら、安藤が願った多様性がない個体差の脆さが発言し、免疫機構に欠陥があったらしく、あっさりと死んだらしい。でも、彼女は子供を残していた。
貞子が望んでいた物は子供である。子供が作れず、自分と言う存在を残す術がないため、自分自身が永遠に存在し続ける方法をとったのが、ループまでの山村貞子なのだが、この作品では、彼女は高山との有性生殖、つまりセックスによる通常の人間と同じ方法で自分の子供を授かる。殺されてしまった四人の貞子の少女は悲惨な死を迎えたが、オリジナルの要素を最も受け継いだ貞子、丸山真沙子は念願の子供を授かった後、まるで娘を見守る様に、時折姿を見せていた。悪魔でも化け物でもなく、母として存在する。自分の子宮から生まれた孝則と、貞子の正真正銘の娘である茜の出会いは、一種危うさをはらんだ構図ではあるが、神である高山と聖母であり天使であり悪魔でもある貞子が関わる二人のカップリングは、神々しさも感じる。
問題の高山であるが、冤罪による死刑執行を迎えてしまう。この高山は、ループ界に降臨した二見馨に間違いない。ループ界の構造を熟知しているため、ループからさらに下の階次元である二次元に移行する手段を、死の間際でありながら冷静に発見し、二次元へ移行する。この目的がいまいち希薄なのが不満と言えば不満である。二次元の高山が姿を表すのは最後だけだ。真犯人の事と貞子同位体、リングウイルスとそのワクチン、茜の両親、そして、二人の将来の幸せを願う事を伝えるのだが、そのためにしては出てくるのが遅すぎる。
メールソフトに乗って被害者の母親の元に向かう。USBのデータに移行し孝則の手に渡り、解析されていくうちに二次元での肉体を得るのだが、その後しばらく姿を消すのである。もちろん、手掛かりとして書籍のリングの存在を残すのだが、それ以外は何もやっていない様である。
だが、ネット上を自由に行き来できる存在なのだから、何も出来ないわけではない。カーナビの操作、リング事件の捜査がいとも簡単に進むこと、ハッキングも驚くほどうまく成功する。やはり、ループ界での後始末に奔走する事と茜の誤解を解くことが目的であり、孝則に対しては自分と同じ経路の再生とそのために何処か利用した面があるので、彼の言う通り見ていられなかったのであろう。そして、高山、そして馨らしく、次なる世界、一次元への旅に向かう。
これは、多様性を取り戻したループ界の、ある一つの未来なのだろう。高山の一生が大きく変わっていることからも、単一の未来に収束するのではなく、未来は多様性が溢れる、いくつもの分岐点がある、そう言う示唆なのかもしれない。
でも、これだと、上位世界にいる礼子は報われないなあ……。転移性ヒトガンウイルスの元凶と馨が結ばれて、子供までいるんだから。まあ、マルチエンディングシステムがループの仕組みだと思おう。
さてさて、問題はラストなのだが、茜は貞子ではないのだが、充分に因子を持っているのは明らかだ。真犯人は自殺と言う事になるのだが、現場には茜がいた。だが、当人はそんな事はなかったかのように思える。性格的には、非常にナイーブな性格なので、隠し通せる雰囲気でもない。貞子因子が勝手に呪殺したのか、彼女を見守る貞子が娘を守るためにやったのか。携帯の電源が切られていた空白の時間が非常に気になる。突然若返った霊体の貞子がいるので後者なのかもしれない。もしくは、殺された四人の貞子が復讐したか?(貞子は霊体でも加齢するので少女達は茜と同じぐらいになる計算)
作者はどうも三部作構想がるらしい。作中でそれを臭わせるぶんがあるのだ。何しろ、第一部は孝則が主人公だと言うのだから、もうネタバレである。確かに、この『エス』は、構成がリングに似ている。それに、何処かで高山が処分しきれなかった書籍のリングがあるかもしれないのだ。何しろ、十七冊の回収されたリングが処分されたとは書かれていない。二作目は連続殺人犯である新村が主人公になる構想だと登場人物の木原に言わせている。しかも、彼は二次元世界に移行した可能性がある。意外と、今度のシリーズは戦う母の貞子さんがメインなのかも。
ループ界と言う非常に便利な世界観を作った作者の優位さを感じた作品。高い評価ではないが、これはこれであり。解釈の仕方もたくさんあるいい意味で隙がある作品だ。
- 2012.05.16 Wednesday
- 15:14







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